特派員モスクワ見聞録
特派員リポート
UHBモスクワ記者 京谷和央
2月3日(月)

<これぞロシア流?仰天マタニティ教室>


この冬だけで200人以上が凍死しているという厳しい冷え込みが続くモスクワで、とんでもないマタニティ訓練を取材しました。

出産を控えたお母さんたちが、池の氷を割って凍てつく水に浸かるというのです。
寒中水泳はさほど珍しくないロシアですが、お腹に赤ちゃんを宿した妊婦が挑戦するというのは驚きです。

場所はモスクワ郊外の森林の中にある池。
参加する若夫婦らと、雪を踏みしめ踏みしめ森を行くといきなり、広い雪原に出ました。
その一角に、ポカリと小さな穴。分厚い氷を割って口を開けた約1メートル四方の穴からは黒々とした水がのぞいていて、その中にプールのように鉄製のはしごが刺し込まれています。

氷点下の寒さの中で、氷の下からのぞく水というのはそれはそれは寒々しく見えます。
水温を計ってみると零度ちょうどでした。

楽しげにおしゃべりしながら、水着に着替え始めた妊婦たちに、一体この試練にどんな意味があるのか聞きました。
「氷水に入ることで、出産という厳しいイベントを乗り越える心構えができるわ」という返事。
お腹の赤ちゃんは心配じゃないのか?という質問には「わたしの体に良いことは、赤ちゃんにも良いはずでしょ」とケロリと言ってのけます。

そして言葉通り、丸々としたお腹を抱えるようにしながら躊躇なく水に入っていきます。
一定のリズムで呼吸しながら、肩まで浸かって数十秒間。
寒風の中、湯気を上げながら出てくると「アトリーチナ!(最高だわ)」とスッキリした笑顔。
次々と水に浸かる彼女等の様子からは、試練に立ち向かっているという悲壮感も、変テコなパフォーマンスをしているという気負いも感じられません。

このマタニティ教室を主催する小児科医アレクサンドル・ナオモフさんによると、訓練には、母体と赤ちゃん双方の体の耐久力を高め、ストレスに負けない精神力を養う
心身両面の効果があるそう。
10年ほど前から出産準備の訓練に組みこまれ、この試練を乗り越えて、これまで数百人の元気な赤ちゃんが生まれましたが、一件の事故もないと胸を張ります。
「赤ちゃんは、御母さんの体脂肪や筋肉に守られ、さらに羊水の中にいるので、母体が1分程度氷水に浸かっても全く影響がありません」(ナオモフさん)。

この模様は、20日のスーパーニュースでOAされたので妊婦たちの爽快そうな笑顔を御覧になって、ホンマカイナと驚かれた方もいらっしゃるでしょう。
そこで本当に体に良いのか。その疑問に答えを出すべく、UHB特派員も挑戦してみることにしました。

海パン一丁。厚いジャンバーを脱ぎ、寒空に肌をさらしただけで顔が引きつります。
さっさと済ませたい一心で、飛び跳ねるようにして梯子に手をかけ爪先からそろりと入水。
外気より水のほうが温かいので、最初の一足は、それほど冷たいとは感じませんでしたが、太ももからお腹、お腹から胸、肩へと浸かっていくと、ちくちくした痛みが全身を包みます。

まわりをぐるりと氷に囲まれて肩まで水に浸かって見上げる景色は、実に不思議で刺激的でした。冬の北海道の露天風呂なら同じような光景を見られるかもしれませんが、肌を突き刺す寒さはよく似た状況を全く違った印象に変えてしまいます。

結局、悲鳴をあげつつ水から上がりましたが、確かに思ったほど、身の危険を感じるほど冷え切らない。むしろしばらくすると体の奥の方からポカポカと何やら暖かいエネルギーが湧いてくるのを感じました。
一度きりの体験なので、錯覚かもしれませんが、もしかしたら、適度な氷水浴は、人間の体が本来持つ体温保持機能を高める作用があるのかもしれません。

ちなみに、このマタニティ訓練、ロシア以外で採用している国はないそうです。