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モドル

(10月21日)
「有名バレリーナが解雇騒動」から見えたもの

世界有数のバレエ名門ボリショイ劇場の看板バレリーナが「身体が大きすぎて、一緒に踊るパートナーがいない」という理由で、9月に劇場から解雇されたニュースは世界に流れました。
 身長168センチ、体重50キロ。女性としては公表したくない数字をボリショイのソリスト、アナスタシア・ボロチコワさんはfnnのインタビューなどで明らかにし「なぜ、この身体で解雇されるの?」と抗議しました。
 ボロチコワさんを間近で取材した印象からは、身体が大きいという理由で解雇されるのに多少の疑問を感じました。
 取材してみると、ロシア芸術の今が垣間見えました。

 旧ソ連時代、この国ではオリンピックで華々しい活躍をしたスポーツの世界と同様に芸術も国家主導で振興され、特に音楽の世界では欧州と並ぶ世界最高のレベルを誇っていました。
 バレエやオペラ、オーケストラの団員は国家の経営する劇場・団体に所属し、実際には現役を退いても、年金を受け取る年齢まで給与が与えられるという厚待遇でした。

 体制崩壊後もしばらくは、団員たちの「終身雇用の公務員状態」が続きましたが、資本主義導入後のインフレ、経済成長に伴い、劇場の支出は気球のように膨張して行きます。
 ボリショイ劇場を例に挙げると、1995年度の支出は約1510.8万米ドル。
6年後の2001年度は約8687.5万米ドル。5倍以上です。
 そこで、同劇場は数年前からバレリーナをはじめとする団員と「個人契約」を結ぶことになります。
 つまり、日本の野球選手が毎年シーズンオフに球団側と契約更改するのと同じように、ボリショイのバレリーナも契約により仕事をすることになったわけです。

 ボロチコワさんもボリショイ劇場との契約がありました。ボロチコワさんの話によると、これまでの契約内容は月給が90米ドル。そして公演一回につき900米ドルでした。しかし、今回、劇場が新たに提示した契約には、9月のシーズン開始から今年12月31日までの期日で、公演の予定は一度もありませんでした。
 ボロチコワさんは、この契約を拒否しました。
 表向きには「身体が大きすぎて、一緒に踊るパートナーがいない」ということですが、劇場関係者の話では金額面で双方の折り合いがつかなったのが騒動の発端では?という見方があります。

 ボロチコワさんはインタビューのなかで「バレエはスポーツではない」「踊る人間の魂から、観る人間の魂に移る芸術」と話しています。
 実際に、実績が数字に出るスポーツ選手と違い、芸術家の何を評価し、どのような金額で契約を結ぶのかは難しいところです。
ただ、ロシア芸術の殿堂にも、ついに市場原理が導入され、露呈した問題ということは言えそうです。

 モスクワには現在でもバレエ、オペラ、オーケストラのコンサートが連日さまざまな会場であり、音楽の好きなモスクワっ子にも、外国人にも魅力的です。

公演のレベルとともに、チケットが日本に比べて格安であることも理由のひとつです。日本では5000円~数万円するようなレベルの公演でも、1500円程度で入場できることも珍しくありません。
 裏を返せば、ロシアの芸術家たちは、この数年で置かれている立場が劇的に変貌し、生活が厳しくなってきています。

他国を見渡せば、芸術家と劇場などの「契約」はごく自然な作業です。
そして、ロシアは将来「市場原理」と「芸術のレベル」をどのようなバランスを計って行くのでしょうか?
一方では、「t.a.t.u.」のような若くて才能溢れるロシアンポップが世界を席巻しており…。
今は、まさに過渡期なのだと実感します。